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[訂正情報]
『空乏層に入ってきたガンマ線は「だらだらと」電子-ホール対を作り続けて
エネルギーを失っていく』、『トリウムガラスから出るガンマ線のエネルギーは
主に63.8keVだ』、と言った辺りは私の知識の無さからきた誤った記述です。
そのうち時間ができたら書き換えますがとりあえずそのままになっています。
波高分布はどうなるべきか
フォトダイオードを使ってのガンマ線の測定ではパルスの波高分布から
ガンマ線のスペクトルが
わかるという。一方二号機で得られた波高分布は高エネルギー側にだらだらと
尾を引いているのと、トリウムガラスを測ってもマントルを測っても
(どちらもトリウムだが)、また環境放射線を測っても同じような分布に
なっていてスペクトルが測れている気がしない。どういうことなのか。
フォトダイオードでスペクトル測定
フォトダイオードの空乏層に入射したガンマ線は電子-ホール対を生成
しながら次第にエネルギーを失い消滅する。電子-ホール対を一つ作る
コストEehはバンドギャップエネルギー(実際にはその2倍以上・常温のシリコンで
3.6eV)でありガンマ線光子一つはNp=Eg/Eeh(Egはガンマ線のエネルギー)
個の電子-ホール対を作る。チャージアンプの出力パルスはNpに比例している
のでパルスの波高分布からガンマ線のスペクトル分布が得られるという
わけである。
ただしそれは空乏層が十分に厚くガンマ線が空乏層内で消滅するときの話で、
高いエネルギーのガンマ線だと消滅する前に空乏層を通過してしまう。
その場合理屈はともかく波高分布は非常に広がっていてエネルギーを推定することは
できない。文献[1]にそれぞれの場合の波高分布の測定例あり。
空乏層の厚み
空乏層を厚くするにはどうすればいいか?
PIN構造にしてI層を厚くすればいいのでは、と素人考えで思うのだが実際には
純粋なI層は作れない。
PN接合面の空乏層はP側のほうが不純物濃度が低い(ドナー濃度Nd)
とすると主にP側に広がり厚みは(V0/Nd)^(1/2)に比例する(V0は
逆バイアス電圧)。最高純度のシリコンは残留不純物のボロンのため
わずかにP型で、結局そのドナー濃度が空乏層の厚みを制限する。
0.2mm程度が限度のようだ(文献[3]には普通のPN接合型で1mmくらい
までLiドリフト法だと6mmくらいまでとある)。
スペクトル測定できるエネルギー範囲
シリコンの電離エネルギー損失は390keV/mmなので空乏層の厚みが0.2mm
として78keVまでとなる。0.15mmだと58keVまでとなりすでにトリウムのスペクトルも
測れない。
テストパルス
回路に問題がある可能性も考えてチャージアンプの入力のところにテストパルス
(電荷パルス)を入れられるようにした(Cは100pF)。
計算上は20ns x 0.5Vの入力パルスでタリウムのガンマ線(63.8keV)と同じ大きさの
パルスが出てくるはず(空乏層が十分厚いとして)。
テストパルスの繰り返しは100Hz。2分間積算。
1.1V、2V辺りの入力に対する応答は問題なさそう。0.4V、0.6Vでは数え落としが
あってなんだが閾値(コンパレーターの)をかなり高く設定してあるせいもあると
思う。3Vのときに50bin辺りにちょろっとカウントが出ているのも少し気にはなる。
タリウムガラス(TAKUMAR 105/2.4)を密着、2.5Vのテストパルスも加えた状態で
5時間積算。ピークの高さを同じくらいにしたかったがパルスジェネレータの繰り返しが
25Hzからなので25Hzにしてある。
部分拡大。テストパルスの影響はないように見える。
結論
スペクトルを得るには使っているフォトダイオードの空乏層の
厚みがおそらく足りていないのだろうと推察される。逆バイアス電圧を当初の15Vから
32Vまで上げてみたが変化なし。
「このフォトダイオードでスペクトルが測れた!」等の情報があったら
教えてください。
その他
空乏層以外のところでも電子-ホール対は作られているのか?
作られてはいるがそこでは電界がかかっていないのでランダムに拡散しつつ
そのうち消滅し信号には寄与しないだけ、との説もあり。
そこで線源(いつものTAKUMAR 105/2.4)と検出器の間に0.7mm厚のシリコンウェファー
(電子線リソグラフィー用なのでP型かN型かになってると思われ)を入れて計測して
みたところないときよりカウント数が0.6~0.7倍になったが波高分布の形状に
変化は見られなかった。空乏層と同じように電子-ホール対が作られていれば
0.15mm程度で完全吸収され、またより薄いものを使ったとしてもエネルギーシフトを
起こしているはず、と思うのだが。
【文献】
[1] シリコンγ線検出器、富士時報 54 8 524 (1981)
[2] ホトダイオードを用いた半導体検出器の基礎特性の研究
[3] 「放射線計測」加藤貞幸著・新物理学シリーズ26、培風館 (1994)